14 最終レポートの説明

Published

2024/07/12

Modified

2024/08/05

1 概要

  • 提出期限は,2024年8月2日(金)23:55とし,提出先はBEEF+の指定された場所(財務会計・管理会計別々)とします.

  • ファイル形式は,.qmdファイル(あるいは.Rmdファイル)とし,ファイル名はID_学籍番号とすること.

  • 採点基準は,(1)指示通りのことを実現するコードが書けているか否か,及び(2)コードの可読性,(3) 結果の解釈である。(2) は,第三者が提出されたコードを見たとき,なぜそのようなコードを書いているかのが一目瞭然に分かるかどうかにより評価する.したがって,適宜適切にコード内にコメントを付すこと.適切なコメントは,第三者による可読性を高めるほか,再現可能性の向上にも寄与するものである.

2 課題1(財務会計)

  • 本課題の目的は,会計研究の金字塔とも呼ぶのに相応しい Sloan (1996) の分析をシミュレーション・データにより追試するを通じて,実践的な財務・株式データのハンドリング,及び会計情報の株式市場での役立ちに精通することである.

2.1 問題1

  • 現行の発生主義会計によって計算される会計利益は,二つの構成要素に分けることができる.すなわち,(1)営業活動によるキャッシュ・フロー要素と(2)それ以外のアクルーアルズ(会計発生高)要素である.前者は,当期純利益のうち営業活動によって現金増加の裏付けのある金額を示し,他方,後者は,それ以外の金額を表す.したがって,同額の当期純利益を計上する二つの企業があったとしても,前者が多く,後者が少ない企業の当期純利益は質が高い一方で,後者が大部分を占める企業の当期純利益は質が低いと見なすことができる.

  • シミュレーション・データfinancial_data.csvを利用し、以下で定義される各変数を計算し、 Sloan (1996) のTABLE 1のPanel Aを再現し、自身で作成したoutputフォルダにtable1.csvとして出力せよ.

\[ \begin{align*} \text{Cash-Flow}_{j,t} &\equiv \frac{\text{Cash-Flow from Operation}_{j,t}}{\text{TA}_{j,t-1}} \\ \text{Net Income}_{j,t} &\equiv \frac{\text{X}_{j,t}}{\text{TA}_{j,t-1}} \\ \text{Accruals}_{j,t} &\equiv \text{Net Income}_{j,t} - \text{Cash-Flow}_{j,t} \end{align*} \]

  • ただし,\(\text{Cash-Flow from Operation}_{j,t}\)は企業\(j\)\(t\)期の営業活動によるキャッシュ・フロー,\(\text{X}_{j,t}\)は当期純利益,\(\text{TA}_{j,t-1}\)\(t-1\)時点(すなわち,\(t-1\)期末)の資産合計をそれぞれ表す.

  • 本課題全体を通じて,分析対象は,上記の三変数が計算可能で,かつ,3月末決算企業としよう.

  • 表の形式は問わない(例えば,1列目にポートフォリオ・ランキング,2列目以降に各変数の平均値と中央値を配置する形式でも構わない)一方,年度ごとに\(\text{Accruals}_{j,t}\)に応じてポートフォリオ・ソートを行い,十個のポートフォリオのそれぞれについて,各変数の平均値と中央値を報告すること.また,桁数は小数第三位まで表示すること.

  • financial_data.csvに収録されている各項目の概要は,以下の通りである.財務項目については,全て百万円単位で収録されている.

    項目 説明
    acc 決算年月 (YYYY-MM形式)
    macc 決算月数
    scflg 連結/単独フラグ (1: 単独, 2: 連結)
    secflg 連結会計基準フラグ (1: 日本基準, 2: SEC基準, 3: IFRS基準, 0: 単独)
    d01110 当期純利益
    f01001 営業活動によるキャッシュ・フロー
    b01110 資産合計
    WC 正味運転資本 (Net Working Capital)
    NCO 非流動営業資産 (Non-Current Operating Assets)
    FIN 純金融資産 (Net Financial Assets)

2.2 問題2

  • Sloan (1996) の仮説1は,次の通りである.

    H1: The persistence of current earnings performance is decreasing in the magnitude of the accrual component of earnings and increasing in the magnitude of the cash flow component of earnings (p. 291).

  • これは,かみ砕いて言うと,「当期利益の質が低い高アクルーアルズ企業(裏を返せば,低営業キャッシュ・フロー企業)ほど,将来の利益が相対的に低迷する」という仮説である.この仮説を検証するために,ggplot2を用いて,のFIGURE 1を再現せよ.図の形式は問わない一方,それぞれの折れ線グラフが,いずれのポートフォリオのものを指すかが明確になるように,凡例を適切に設定すること.また,\(x\)軸と\(y\)軸のラベルは,原論文に従い,それぞれEvent YearMean Earningsとしよう.

  • 2005年から2012年のそれぞれの年度において,\(\text{Net Income}_{j,t}\)\(\text{Accruals}_{j,t}\)\(\text{Cash-Flow}_{j,t}\)の大きさに応じてポートフォリオ・ソートを行い,両極端なポートフォリオ,すなわち,第1十分位と第10十分位ポートフォリオに属する企業の平均的な\(\text{Net Income}_{j,t}\)を前後5期にわたって計算し,それを描画すること.したがって,手順としては年度\(t\)において各変数の大きさに応じて十分位ポートフォリオを作成し,各企業の\(\text{Net Income}_{j,t - 5}\)から\(\text{Net Income}_{j,t + 5}\)を求める.あとは,\(t-5\)期から\(t+5\)期の11期間にわたって,それをポートフォリオごとに集計することでグラフを描画することができる.

  • 三つのグラフが完成したら,それを一つのpngファイルへと集約し,自身で作成したoutputフォルダにfigure1.pngとして出力せよ.

2.3 問題3

  • 仮説1が示唆する通り,高アクルーアルズ企業ほど,将来的に利益が低迷するという現象は,実は国を問わず,広く観察される.このようなアクルーアルズの性質は,広く知られた事実であり,投資家が合理的である限り,高アクルーアルズ企業の株価は低く付され,反対に低アクルーアルズ企業の株価は高く付されるはずである.ただし,もし投資家が,利益の質を考慮せず(アクルーアルズの多寡を無視して),当期純利益だけを見てナイーブに投資しているとすれば,高アクルーアルズ銘柄も低アクルーアルズ銘柄も同じように評価されることになる.結果として,当初,高(低)アクルーアルズ銘柄の株価,割高(割安)に形成され,将来的にその銘柄のリターンは低下(上昇)することになる.こうした背景から, Sloan (1996) は,仮説2(ii)の仮説を提示している.

    H2(ii): A trading strategy taking a long position in the stock of firms reporting relatively low levels of accruals and a short position in the stock of firms reporting relatively high levels of accruals generates positive abnormal stock returns.

  • この仮説を検証するため, Sloan (1996) は,年度ごとに\(\text{Accruals}_{j,t}\)に基づいてポートフォリオ・ソートを行い,ポートフォリオ内の各銘柄に等金額を配分する等加重ポートフォリオを形成した.ポートフォリオ形成後,12ヶ月間にわたるリターンを計算しては,またポートフォリオを組み直す(これをリバランスと言う)という戦略を分析対象期間を通じて行い,確かに高(低)アクルーアルズ・ポートフォリオほど,将来リターンが低い(高い)傾向にあることを明らかにし,仮説2(ii)を支持する証拠を得た.

  • その分析に用いられているのが,CAPMアルファである.各ポートフォリオについて,分析対象期間にわたって実現超過リターン\(R_{P,t}^{e}\)が毎月得られるわけであるから,CAPMを前提として時系列回帰 (time-series regression)を実行することにより,各ポートフォリオのCAPMアルファ\(\alpha_{P}\)を推定することができる.

\[ \begin{align*} \underbrace{R_{P,t}^{e}}_{\substack{\textbf{ポートフォリオ$P$の} \\ \textbf{実現超過リターン}}} = \alpha_{P} + \beta_{P} \underbrace{R_{M,t}^{e}}_{\substack{\textbf{市場ポートフォリオの} \\ \textbf{実現超過リターン}}} + \varepsilon_{P,t} \end{align*} \]

Figure 22

  • 教科書第6.4節で述べているように,証券投資の実務においては,アルファはファンド運用者の運用スキルの評価基準として利用される.その理由は,CAPMを始めとするファクター・モデルは,ファンド運用のリスクに応じた適切なリターンのベンチマークとして利用されており,アルファはファンド運用者の固有の付加価値を表すものとして,彼らの報酬決定の基準となるからである.すなわち,実現超過リターンの平均値は,(1)CAPMを前提として,そのポートフォリオのリスクに応じたリターン\(\hat{\beta}_{P}\bar{R}_{M}^{e}\)と(2)それを更に超えたリターン\(\hat{\alpha}_{P}\)に分解することができるので,正のアルファが得られるポートフォリオに投資したファンド運用者はリスクに応じたリターンを超える異常なリターンを獲得したと賞賛されることになるのである.

Figure 40

  • 高(低)アクルーアルズ・ポートフォリオほど,低い(高い)アルファが得られるのかを分析することで仮説2(ii)を検証してみよう.最初に各\(t\)年3月期の\(\text{Accruals}_{j,t}\)を基に十分位ポートフォリオを作成しよう.有価証券報告書は一般的に決算期末から起算して90日以内に公表されることを鑑み,実際にポートフォリオを運用する期間は\(t\)年7月から\(t+1\)年6月の12ヶ月間とする.このように,決算期末からポートフォリオの運用を始めるまで三ヶ月のラグを置くことによって,投資家が決算短信や有価証券報告書を通じて,間違いなくアクルーアルズ情報を知っていることを保証する.それでもなお,既知のアクルーアルズが,将来リターンを予測できるか否かがこの問題の焦点である.

  • 各銘柄への投資ウェイトは同額としよう.分析対象期間にわたって,年一回リバランスを行い,各月各ポートフォリオの実現超過リターンをベースにCAPMアルファを推定すると共に,各ポートフォリオの平均実現超過リターンとCAPMアルファを報告すると共に,それぞれの\(t\)値を一覧表にまとめ,outputフォルダにtable2.csvとして出力せよ.表の形式は問わないが,平均実現超過リターンとCAPMアルファは小数第三位まで,\(t\)値は小数第二位まで表示すること.

  • それに加えて,ポートフォリオごとのCAPMアルファを棒グラフにより描画し,それをoutputフォルダにfigure2.pngとして出力せよ.なお,\(x\)軸と\(y\)軸のラベルは,それぞれPortfolio Accruals RankingCAPM alphaとすること.

  • なお,各月の無リスク金利R_Fや市場ポートフォリオの超過リターン\(R_{M} - R_{F}\) (R_Me)に関する情報はfactor_data.csvに,個別銘柄の株式データはstock_data.csvに収録されている.stock_data.csv内に収録されている各項目は,以下の通りである.なお,各CSVファイルに収録されているリターンは,全て%表示であることに注意すること.

    項目 説明
    month 年月 (YYYY-MM形式)
    stock_price 株価
    shares_outstanding 発行済株式数
    R トータル・リターン
ヒント!
  • lubridateを利用した日付処理: 日付データを扱う際には,financial_data.csvaccstock_data.csvmonthのようなデータを処理するために,lubridateパッケージが非常に便利である.このパッケージは日付操作を簡略化し,分析をより効率的に遂行するのを手助けしてくれる.

  • 決算月数が12ヶ月の観測値のフィルタリング: Accrualsのようなフロー測定を計算する際には,必ず12ヶ月の会計年度を持つ企業のみを分析に含めることが重要である.企業は会計期末をしばしば変更するため,このステップを踏むことにより,各変数について,全社横並びでの比較ができるようになる.

  • ラグ変数の取り扱い: ラグ変数を計算する際には,前期の会計基準フラグsecflgに特に注意を払う必要がある.secflgが一貫している場合にのみラグ変数を計算することが重要である.これを怠ると,誤った解釈や歪んだ結果を招く可能性があるので,注意が必要である.

3 課題2(管理会計)

企業の持つデータはさまざまなレベルで集計し,考察することができます。仮想データを使った分析を通して,体験してみてください。使用するデータは,データのページ第14回にあります。

3.1 設定

ある企業K社は,3つの工場(Factory1からFactory3)でコンピューター部品を作っています。部品は全部で3種類(A, B, C)です。データには,各工場での製品別の原価情報が含まれています。このデータを用いて,企業全体,各製品の収益性や工場のパフォーマンスについて検討したいと考えています。

なお,各製品の販売単価は,A = 180, B = 235, C = 300です。

3.2 問題1

データは工場ごとのファイルに分かれています。ファイルには製品別・月別の生産量及び原価情報が含まれています。これらを結合して,分析可能な形に直してください。なお,データセットの名前はdataとし,各費目の列名はcost_type列に入っている費目名をそのまま使ってください。月はmonth,工場はfactory という名前の列名をつけてください。

cost_typeに入っている変数
product 製品を識別する変数 overhead 間接費
quantity 生産量 other その他費用
material 原材料費 total 総費用
labor 人件費
新しく作る変数
month factory 工場を識別する変数
ヒント
  • 各ファイルでは,列が月,製品別の生産量・費目が行になっています。これを修正する必要があります。
  • データの中に,どの工場のデータかを識別する情報は入っていません。各工場のデータを結合する前に,工場を識別するための変数を作っておく必要があります。

3.3 問題2

企業全体の収益性を確認し,全社的な業績目標に対する現状を検討したいと考えています。

  1. まず,企業全体の固定費と変動費の構造を推定します。その準備として全工場での各月の合計生産量(quantity_month)と総費用(total_month)を算出し,企業・月単位のデータ(data_month)を作ってください。
  2. 最小二乗法で固定費と変動費率を推定してください。推定結果から,この企業のコスト構造について説明してください。
  3. この企業の製品の平均価格を,1年間で作った各製品の生産量と製品価格を使った加重平均で算出してください。
  4. 費用関数と売上関数を図示してください。x軸は生産量(quantity_month),y軸は総費用(total_month)としてください。x軸は”Quantity” y軸は”Amount of Money“というラベルをつけてください。
  5. 損益分岐点を計算してください。
  6. この企業の目標売上高利益率(利益は売上高 - 総費用で計算)は10%です。目標を達成するために必要な数量を計算してください。
  7. 損益分岐点の数量,目標利益率の数量と実績を見比べて現状を分析してください。
ヒント

dataは月×工場×製品単位ですが,data_monthは,月単位のデータです。なので,加工前のデータは12ヶ月×3工場×3製品の108行あるはずですが,data_monthの行数は12になるはずです。重複した行を削除するコマンドとしては,distinct()などがあります。

3.4 問題3

次に,製品別の収益性を確認し,今後どの製品にどれぐらい力を入れるべきか検討します。

  1. 製品別の固定費・変動費を最小二乗法で推定してください。
  2. それぞれの製品の損益分岐点を計算してください。
  3. 製品ごとの特徴を考察してください。

3.5 問題4 (ボーナス点)

必須問題ではありません

問題1から3までで満点分として採点し,問題4は+α点として加算します。取り組むかどうかはお任せします。

データセットには問題2,問題3では使っていない変数が含まれています。また,問題2では企業単位,問題3では製品単位での分析を行いましたが,目的によっては別の分析単位を採用することも考えられます。

ここまでで行った分析以外の観点で分析してみてください。その上で結果を考察してください。

4 参考文献

Sloan, R. G. 1996. Do stock prices fully reflect information in accruals and cash flows about future earnings? The Accounting Review 71 (3): 289–315.