シラバス
1 授業のテーマ
本科目は経営データ科学特別学習プログラムの履修要件の一つです。
会計データは企業の言語であり,企業の1年間の業績をまとめた財務諸表は,企業の成績表として企業外部のステークホルダーとのコミュニケーションに使われます。また,企業内でも企業全体・部門等の目標は会計数値で設定され,その目標の達成度合いに応じて管理活動や業績評価がなされます。
個々の企業の財務諸表分析を行ったり企業内の各部門の目標と実績を対比したりすることで,企業活動のさまざまな面を明らかにできます。しかし,多くの企業もしくは企業内の部門のデータを集計し統計的に処理をすると,個々の数値の分析では見えなかった傾向や法則が見えることがあります。
会計学研究では,大規模データの分析を通して経営者や投資家,従業員等がいつ,どのような行動を取るのか,その行動の背後にはどんな意図・原因が存在するのか,といったことを明らかにされてきました。このような学術研究の成果を踏まえ,この講義では,数多くの企業や部門(×長い年数)の会計データを集計し,分析することの目的や意味,経営活動への役立ち,分析方法等について学びます。
2 授業の到達目標
会計情報がいかに経済社会や株式市場で重要な役割を果たしているかを自らの言葉で説明できるとと共に,R言語を用いて会計データを適切に処理し,企業分析を行ったり,株式投資に応用したり,また学術的に裏打ちされた分析・手法に基づいて企業価値創造に資する施策を提案できるようになることを到達目標とします。
3 授業の概要と計画
経営分野全般の中でも会計分野は,企業が外部に開示する決算短信・有価証券報告書データや内部管理目的で利用する会計データを始めとし,アーカイバル・データが豊富に利用可能であるという特徴を有します。本講義は,「会計xデータサイエンス」をキーワードに,会計データを分析する意義,その背後にある学術的背景,及びR言語を用いた分析について包括的に学習することで,実践的に会計データを扱えるようになることを目標にします。
本講義の計画は,以下の通りです(受講者の前提知識や講義の進捗状況によっては内容を部分的に変更したり,前後する場合もあります)。
- Rのセットアップ - Posit Cloudへの登録,プロジェクト管理,及びMarkdown入門
- Rのセットアップ - シミュレーション・データの準備とR言語の基本的な機能
- tidyverseパッケージを利用した財務データ分析入門
- 財務データの加工,集計,及び可視化
- 利益分布アプローチによる利益マネジメントの実態分析
- 株式データ分析入門
- 財務データと株式データを組み合わせた分析
- バリュー効果の検証を例とした線形回帰入門
- 株式投資への応用例 - 会計発生高アノマリーの検証
- 管理会計で用いるデータとその分析
- コスト構造の推定とCVP関係の分析
- コストビヘイビア分析を通した経営行動の探索
- KPIの分析
- 実験的手法と効果検証
- まとめ,最終レポートの説明
4 成績評価方法
以下の基準で成績評価を行います。
- 会計データの役割や,データ分析の目的を理解出来ているか
- 分析に用いる各種技法の内容が理解出来ているか
- 分析手法が目的に合わせて適切に選択出来ているか
- 理論とデータ分析の接続を行うことが出来ているか
- データ分析の結果を適切に解釈出来ているか
5 成績評価基準
授業中・授業後課題(クイズ・実習等):30%
最終レポート:70%
6 履修上の注意(関連科目情報)
DSP科目です。プログラムの規定において,経営データ分析受講前に必要な科目とされるものを全て履修した方しか受講できません。この科目独自の必須科目は設けていません。
PC(またはMac)を毎回持参してください。iPadでもできないことはありませんがおすすめはしません。
この授業ではPosit Cloudというサービスを使います(Rstudioのweb版みたいなものです)。Googleアカウント(もしくはGitHubアカウント)があると登録がスムーズです。神戸大学から付与されているGoogleアカウント等にログインできるようご準備ください。
7 事前・事後学修
7.1 事前学修
授業中に指示があった場合,テキストの該当箇所や関連科目(財務会計・管理会計)の教科書・授業資料等を見直してきてください。
7.2 事後学修
授業後の実習課題がある回は,事後学修として課題に取り組んでください。また,授業中に扱った分析を自身の環境で実行してください。授業で用いた分析手法やコードを等を少し変えて試してみる,といったことを繰り返すと,データや分析手法に対する理解が深まります(特にプログラミングはたくさんエラーを経験しているうちに段々わかってきます)。
本学では1単位あたりの学修時間を45時間としています。毎回の授業にあわせて事前学修・事後学修を行ってください。
8 オフィスアワー・連絡先
質問等は講義終了後に受け付けます。メールでの質問も受け付けます。メールアドレスは初回の講義でアナウンスします。
9 学生へのメッセージ
企業の持つ最も網羅的なデータは会計データです。企業が打つ手(例えば新製品や新サービスの開発・発売や新規事業開発,マーケティング施策など)を決める際には費用や収益に関する会計的な見積もりが使われますし,その効果も会計データ(例えば売上高や利益)を用いて評価されます。組織で働く人の働きぶりを評価する際にも会計データが使われます。網羅的なデータであるため,他にも様々な角度で分析し・活用することができます。
会計データについてとデータ分析について,それぞれの知識を組み合わせて使えるようになれるよう,2つの知識の橋渡しができたらと考えています。
10 今年度の工夫
開講初年度です。受講者の皆さんの前提知識や関心を踏まえてある程度の柔軟性を持って進めていきたいと考えています。この授業では,同じ会計学領域の中にあって「近くて遠い」とも言われる財務会計と管理会計について,それぞれを専門とする教員が担当します。全体を通して会計データ分析が企業内外でどのように役立ちうるのかを示せるよう工夫しています。
11 教科書
教科書: 笠原晃恭・村宮克彦 (2022)『実証会計・ファイナンス - Rによる財務・株式データの分析』新世社.
サポートサイト: https://www2.econ.osaka-u.ac.jp/~eaafinr/index.html
GitHubリポジトリ: https://github.com/kshrmrmy/empirical-accounting-and-finance-in-r
参考書・参考資料等
12 授業における使用言語
日本語
13 キーワード
パソコン/長文レポート/R言語/実証会計/実証ファイナンス/財務諸表分析/株式投資/管理会計